オルゴール研究室
 オルゴールや自動演奏楽器の歴史やメカニズムを知るためのページです。

シリンダー・オルゴール

 自動演奏楽器のために音楽を記録する手段は、様々なものが考案されました。その中でも最も古くから実用化していたのが、筒に突起を配列したもので、一般的にシリンダー(大型のものや木製のものはバレル)と呼んでいます。これらは自動演奏カリヨンや自動演奏オルガンをはじめ、様々なものに応用されました。シリンダー・オルゴールもその延長上に生まれたものです。
 シリンダー・オルゴールは、一列にならんだ金属片を、シリンダーに植えられたピンが直接はじいて自動演奏するものです。 はじめ、金属片は一本、やがて数本ずつ個別に台座に固定されていましたが、その後、F.ルクートルによって、一枚の金属板から「櫛」のように歯を切り出す技術が開発されました。1820年頃にこの「櫛」が実用化されると、さらに音の数を増やすことが可能になり、調律精度も向上しました。このことで、シリンダー・オルゴールは自動演奏楽器としての完成度を高めます。その後も、櫛の歯に雑音防止ダンパーが付けられるなど改良が加えられ、その結果、音楽表現力はますます豊かなものになりました。スイスでは、19世紀末までシリンダー・オルゴール産業が成長し、一本のシリンダーで複数の曲が演奏できるものや、ベル、ドラムやリードなど付属楽器があるもの、さらにシリンダー交換が可能なものも生産されました。



ディスク・オルゴール

 シリンダー・オルゴールには、一本のシリンダーで十数曲演奏できるものもありましたが、シリンダーの製作には大変な手間がかかりました。また、シリンダーが交換できるオルゴールは、とても高価なものでした。 そこで、より多くの曲を手軽に楽しめるオルゴールが望まれ、1885年頃にドイツのP.ロッホマンによって、新しい楽器が実用化されました。これは、シリンダーの代わりに金属のディスク(円盤)を使ったオルゴールで、ディスク・オルゴールと呼ばれました。音を出す仕組みは、突起がつけられたディスクが回転し、その突起がスター・ホィールを押し回して櫛の歯を弾くというものです。
 ディスクは、その成型方法において画期的なものでした。シリンダーは素材の筒の成型から手作業によるピンの植え付けと固定まで、いくつもの工程を経て作られましたが、ディスクの素材は金属の円盤のみであり、突起は円盤そのものから切り出す形で成型されました。また、生産の過程もシリンダーは家内手工業的な分業制度であったのに対し、ディスクはオルゴールメーカーの工場で大量に一貫生産されました。
 こうした状況のもと、消費者の好む曲が次々とディスクに加工され、小規模ながら現代の音楽ソフトの市場と良く似た状況が生まれたようです。この意味で、ディスク・オルゴールのディスクは、レコード盤の原型と言えるかもしれません。19世紀の末から20世紀の初頭にかけて、主にドイツとアメリカ(一部はスイスでも)で盛んに生産され、ヨーロッパをはじめ世界中に普及しました。



自動演奏楽器について

 ヨーロッパでは、中世の頃から大きさが異なる調律されたベルを組み合わせて音楽を演奏する、カリヨンという楽器が作られていました。これは、教会の塔などに取り付けられましたが、14世紀になると“ピンなどの突起が付いたシリンダー”を利用して自動演奏するものが生まれました。本格的な自動演奏楽器としてはこれが最初のものとされています。
 シリンダーを応用することでいろいろな楽器の自動演奏が可能になり、自動演奏オルガンなども作られるようになりました。18世紀から19世紀、そして20世紀のはじめにかけて、自動演奏楽器は音楽の大衆化とともに黄金時代を迎えました。
 自動演奏のオルガンやピアノはそれぞれに様々製品が開発されました。また、ヴァイオリン、アコーディオン、ハープ、バンジョー、ツィターなど、多くの楽器の自動演奏化が試みられ、その幾つかは商業的に成功しました。動力や演奏の記録法方も多様化していきました。
 私たちになじみの深いオルゴールもこうした自動演奏楽器の仲間ですが、これは初めから自動演奏専用に開発された発音体(櫛の歯)を使った自動演奏専用の楽器であることが他との相違点です。  20世紀に入り、種々の自動演奏楽器は完成の域に達しました。演奏家の芸術的表現までも再生する“リプロデューシング・ピアノ”など魅力的な楽器が考案されました。ところが、蓄音機などの発達、第1次世界大戦の勃発や不況、そしてラジオ放送の開始という社会的背景の中で、大型自動演奏楽器は実用的価値を失い、1920年代から1930年代にかけて、ほとんど生産されなくなりました。

図:自動演奏カリヨンの仕組み



オルゴールとは

 14世紀に考え出された自動演奏カリヨンは、時計の技術とも結び付き、高価な置時計や懐中時計などにも組み込まれるような、小型で精密なものが作られるようになります。しかし、正確な音程を持つベルを小さく作るのは非常に困難な作業であり、小型化には限界がありました。こうしたことが主な理由となって“ベルの代わりに金属片を使用する”という発想が生まれました。18世紀末、ジュネーブの時計職人A.ファーブルが作った“ベルなしカリヨン”のことが、ジュネーブ芸術協会に報告されました。(1799年)
 この新しいメカニズムは、音程の異なる金属片をピンが弾いてメロディーを演奏するもので、それ迄のカリヨンに比べて、小さなスペースで沢山の音を鳴らすことができました。これが、19世紀に全盛期を迎えたシリンダー・オルゴールの原型となりました。

図:シリンダー・オルゴールの仕組み


オルゴールという言葉

 オルゴールという言葉はいかにも外国語のように聞こえますが、これは、日本で言いならわされてきたものです。オランダ語のオルゲル(orgel)が語源と言われ、江戸時代中期から後期にかけての文献《紅毛訳問答》や《嬉遊笑覧》などに、これに類する言葉を見ることができます。明治の頃までは、自動的に音楽を演奏する仕掛けを総称してオルゴルと呼んでいたようです。
 しかし、その後は金属の櫛の歯を弾いて音楽を演奏する小箱を、オルゴールと呼ぶのが一般的になりました。欧米では、このように櫛の歯を発音体にしたものをミュージカル(ミュージック)ボックスと呼び、これらは演奏の記録形態の違いでシリンダー型とディスク型に大別されます。